企業の資産を正確に把握するための棚卸は、製造業や小売業など在庫を抱える企業にとって欠かせない業務です。しかし、棚卸の際は倉庫業務を止める必要があり、担当者の負担や売上への影響のほか、ヒューマンエラーの発生などに課題を感じている企業は少なくありません。
本記事では、棚卸の目的や種類、作業手順について解説します。併せて、手間と時間がかかる棚卸を効率化する方法や、作業時の注意点についても見ていきましょう。
目次
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1棚卸とは
棚卸とは、倉庫や店舗、企業内にある在庫の数量や状態を確認し、資産としての価値を確定する作業のことです。
棚卸を行うことにより、帳簿上の在庫数と現品数に差異がないことを確認できます。
万が一、差異がある場合には、棚卸で判明した現物の数量に合わせて帳簿を修正しなくてはなりません。また、差異が生まれた原因を見つけて改善を図る必要があります。
在庫を抱える企業では、少なくとも年に1回、期首または期末に棚卸を行うのが一般的ですが、企業によっては半期ごとや四半期ごとに行う場合もあり、頻度はさまざまです。
2棚卸の目的
棚卸で正確な在庫数を把握することは、企業経営にとって重要となります。棚卸の目的は、大きく下記の3つに整理することが可能です。
- 企業として正確な利益を確認するため
- 適切な在庫管理につなげるため
- 販売機会を逃さないため
企業として正確な利益を確認するため
企業は、事業運営によってどれだけ成果を出したかを株主などの関係者に表示しなければなりません。このときの重要な指標となるのが「利益」です。
利益は、仕入れにかかった原価を総売上から差し引くことで求められます。そのため、まずは原価を求めなくてはなりません。この原価を正確に知るための方法が棚卸です。
取引先や消費者などに利益を正確に示すことができれば、健全な経営ができていることの証明になり、企業としての信頼性が向上します。
適切な在庫管理につなげるため
人が関与する作業において、ミスをゼロにするのは不可能です。ど
んなに丁寧に在庫管理をしていても、記録漏れや記録ミス、商品の紛失などによって帳簿の在庫数と実際の在庫数が合わなくなることがあります。
棚卸を定期的に行うことで、こうした誤差が大きくなる前に発見して是正できるほか、日々の在庫管理業務の見直しにもつながるでしょう。
結果として、適切な在庫管理を継続できるようになります。
販売機会を逃さないため
在庫数の把握が不正確だと、「在庫があると思って発注を受けたら、倉庫に商品がなかった」「在庫がないからと断ったら、在庫が残っていた」といった行き違いが起こり、販売機会を逃す恐れもあります。
また、棚卸の際には商品の状態を直接確認できるため「いざ発送しようとしたら品質が劣化していて、発送できる状態ではなかった」といった事態を避けることにもつながります。
3棚卸の種類
棚卸には、大きく分けて「帳簿棚卸」と「実地棚卸」があり、それぞれ下記のような方法で行います。
在庫数をより正確に把握するために、2つの方法を組み合わせて実施するのが一般的です。
帳簿棚卸
帳簿棚卸は、帳簿上で在庫を数え、管理する方法です。入庫や出庫のたびに、作業者が在庫数を帳簿に記録し、帳簿上の数の差で現時点での在庫を算出します。
棚卸のためにまとまった時間をかける必要がなくなる反面、入庫から出庫までに何らかの在庫変動があった場合には、その情報を正確に把握しておかなければ、実数との誤差が生じてしまうことに注意が必要です。
なお、決算作業の際は、下記で解説する実地棚卸の後にこの帳簿棚卸を行い、実際の在庫数と照らし合わせます。
実地棚卸
棚卸の時点で実際に倉庫にある在庫を、一つひとつ数えていくのが実地棚卸です。実地棚卸を行う場合、倉庫作業をいったん止めなければならないため、頻繁に行うことはできません。
実地棚卸には、「リスト方式」「タグ方式」「バーコード方式」の3つの手法があります。
手法 | 作業内容 | 特徴 |
---|---|---|
リスト方式 | 作業者が在庫のリスト(帳簿棚卸高)を持ちながら実際の在庫(実地棚卸高)を数え、リストと照らし合わせていき、差異があれば正しい数字をリストに記入する | シンプルな作業で比較的短時間で行うことができるが、数えるのはあくまでも人であり、カウントの重複や漏れが起きる可能性がある |
タグ方式 | 作業者が数えた商品から順に、目印となる連番のタグをつけていく | タグに品目や数量を記入し、最後に回収して確認するため重複や漏れが起きにくいが、リスト方式よりも作業が煩雑で、作業時間が長くなる傾向がある |
バーコード方式 | 在庫に予めバーコードを貼り付けておき、ハンディターミナルでスキャンして数える | 読み取るだけで自動的に情報が在庫データとして反映されるため、一つひとつの在庫を人の手と目で数える従来の棚卸に比べて大幅に時間を短縮でき、正確性も高くなる |
4棚卸の事前準備
棚卸の速度と正確性を高めるためには、当日までの準備が重要です。事前準備としては、少なくとも下記の3つは行っておく必要があります。
- マニュアル・見取り図・管理表の作成
- 人員配置やタイムスケジュールの策定
- 倉庫内の整理整頓
マニュアル・見取り図・管理表の作成
誰が担当しても同じ品質で棚卸ができるように、作業手順を細かくまとめた平準化マニュアルを作成しておきましょう。
熟練者の経験と勘に任せていると、万が一その担当者が休んだ場合や、退職した場合に混乱が生じます。
マニュアルと並行して、倉庫内の見取り図、商品ごとの管理表も準備してください。
見取り図は、何がどこにあるかの情報を全員が共有し、棚や区画ごとに作業場を割り振る際に役立ちます。
管理表には、商品名や品番、個数、単価、作業者名など、棚卸で把握したい項目を盛り込みます。
人員配置やタイムスケジュールの策定
マニュアル・見取り図・商品ごとの管理表をもとに、当日の人員配置やタイムスケジュールを決めることも必要です。 タイムスケジュールには、何か問題が起きたときに備えてバッファーを設けておくと安心です。
倉庫内の整理整頓
倉庫内が乱雑な状態だと、棚卸がスムーズに進みません。下記の3点を念頭に置き、倉庫内を整理整頓しておきましょう。
<倉庫内の整理整頓の注意点>
- 同じ種類の商品は近い場所に置き、点在させない
- 乱雑に商品を積まない
- 棚卸の動線を確保するため、床に物を置かない
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5棚卸の作業手順
実際の棚卸の作業は、下記の3段階で行われます。まとまった時間が必要になるため、すべての作業を効率的に進めなければなりません。
- 実地棚卸をする
- 帳簿棚卸をする
- 棚卸在庫の評価をする
1. 実地棚卸をする
棚卸では、まず実地棚卸で現在の在庫を確認していきます。前述のとおりリスト方式、タグ方式、バーコード方式のいずれかで現物を視認し、管理表に必要な情報を記入します。
作業中、品名がわからないなどカウントに悩む商品があった場合は、後で確認できるよう別のスペースに置く、印をつけるなどの方法で対応することが可能です。作業後、現物を確認できていない商品があった場合は、再度調査します。
すべての結果が出揃ったところで、管理表をまとめて集計してください。
2. 帳簿棚卸をする
作業者全員の管理表が揃い、集計が終わったら、帳簿に現物の在庫状況を反映していく帳簿棚卸を行います。実地棚卸の後で帳簿棚卸をすることで、帳簿の在庫数と実際の在庫状況が一致するように決算処理できます。
もし、帳簿の在庫数よりも実地棚卸で確認した在庫数が少ない場合は、原因を確認しつつ、会計処理で帳簿上の在庫数を一致させることが必要です。
3. 棚卸在庫の評価をする
帳簿棚卸によって正確な在庫数を帳簿に反映したら、把握できた棚卸資産の価値を評価します。評価の方法は大きく「原価法」と「低価法」に分かれます。
原価法
原価法は、現在の在庫を仕入れ時の原価をもとに評価する方法です。
実際には、同じ商品でも仕入れる時期によって原価が変わることがあるため、下記の6つの方法のいずれかで計算します。
名称 | 計算方法の概要 |
---|---|
個別法 | 棚卸資産一つひとつの仕入れ時の原価を確認して評価する |
仕入先出法 | 仕入れた順に売れたと見なして、残りの棚卸資産の金額を計算する |
総平均法 | すべての棚卸資産の総額を、仕入れた数量で割って平均的な価値を割り出す |
売価還元法 | 販売総額に原価率を掛け合わせて取得原価を出す |
移動平均法 | 棚卸資産となる在庫を仕入れるたびに平均原価を計算し直し、 その平均原価で評価する |
最終仕入原価法 | 期末から最も近い取得価額で評価する |
低価法
棚卸資産の帳簿価額と棚卸資産の時価を比較して、低いほうの価額を評価額とします。 仕入れた時点から時間が経つと時価が大きく下がってしまうような棚卸資産については、原価法よりも低価法で評価したほうが正しく実態を反映することが可能です。
6棚卸を効率化する方法
棚卸は、多くの人員を配置し、手間と時間をかけて行われます。棚卸の日は通常業務を止めざるを得ない企業も多いでしょう。
そのため、棚卸の負担をいかに減らすかは在庫を持つ企業の共通の課題であるといえますが、下記6つの方法で棚卸を効率化することが可能です。
- 普段から念入りに検品をする
- 自社に合った実地棚卸の方法を選ぶ
- 管理表に商品の画像を入れておく
- 実地棚卸で一度確認した商品には、わかりやすい目印をつけておく
- 在庫管理システムを導入する
- 物流アウトソーシングを活用する
普段から念入りに検品をする
棚卸時の作業を少しでも少なくするために、普段から検品を丁寧に実施し、商品の品質や破損、不足などを早期に発見できる体制を整えておくのは有効な方法です。日常の心掛け次第で、棚卸の際に発覚する差異が減り、作業を短縮できます。
自社に合った実地棚卸の方法を選ぶ
実地棚卸には、「一斉棚卸」と「循環棚卸」があり、それぞれ下記のような特徴があります。自社に合った方法を選べば、効率化を図ることが可能です。
種類 | 内容 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
一斉棚卸 | 一度に全品目の在庫を数える | 在庫数が少なければ効率良く作業できる | 在庫数が多いと作業が長引き、通常業務への影響が大きくなる |
循環棚卸 | 商品の種類ごと、棚ごと、エリアごとなどに棚卸の対象を分割し、順番に棚卸を行う | 通常業務と並行して少しずつ作業を進められる | 分割した分だけ棚卸にかかる時間は長くなり、作業に取り組む人員の作業精度にも差が出る可能性がある |
管理表に商品の画像を入れておく
商品名だけでは、商品の判別が困難な場合もあります。 管理表に商品画像を挿入しておくと、視覚的に在庫を照らし合わせることができ、効率アップにつながるでしょう。
実地棚卸で一度確認した商品には、わかりやすい目印をつけておく
実地棚卸で時間を取られるのが、最初の作業で確認できなかった商品の再確認です。 確認済みの商品に目印をつけるようにすると、一度作業を終えた後でも再確認する商品を見つけやすくなります。
在庫管理システムを導入する
在庫管理システムでは、バーコードやRFIDタグをハンディターミナルで読み取るだけで、商品の情報をシステムに取り込むことができます。
リアルタイムに正確な在庫を記録することで、実際の在庫数と帳簿の在庫数の差異が起きにくくなるでしょう。
棚卸の際に人の目と手で行う作業が減り、棚卸の精度が高まります。常に適正な在庫が把握できるため、販売機会を逃しにくくなることもメリットです。
なお、導入には初期費用とランニングコストがかかるため、これまでの棚卸にかかった人件費などのコストと照らし合わせて検討してください。
物流アウトソーシングを活用する
物流アウトソーシングとは、「入出荷作業」「検品作業」「在庫管理」「返品業務」「棚卸」「梱包作業」といった物流業務を専門業者に委託することです。最近では、受注処理やカスタマーサービスといった、物流を越えた業務への対応も行う、フルフィルメントサービスを提供している業者もあります。
自社での棚卸業務に限界を感じたら、思い切って物流アウトソーシングを検討してもいいかもしれません。物流のプロフェッショナルに棚卸をアウトソーシングすることで、棚卸にかかっている時間とコスト、人員の削減が可能です。
浮いた人員をコア業務に集中させ、利益の拡大を図ることもできるでしょう。
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7棚卸を行う際の注意点
棚卸の際には、下記の3点を意識して進めることが重要です。
ミスが生じやすく時間もかかる業務なので、正確かつ手早く進めなければなりません。
- ミスを減らすための仕組みを作る
- 商品の数だけでなく品質も確認する
- 作業時間は厳密に管理する
ミスを減らすための仕組みを作る
棚卸自体は、在庫の数を数えて記録し、帳簿と照らし合わせるシンプルな作業です。
しかし、人間が作業をする以上、カウント漏れやカウント間違い、記録時の転記ミス、商品の取り違えなどのミスが起こる可能性はゼロではありません。扱う在庫が増えれば、当然ミスも増える可能性が高まります。
まずは、日々の検品作業を丁寧に行い、入出庫管理や返品業務などのミスを減らしましょう。その上で、棚卸に配置する人員は、在庫を数える人と管理表に記録する人の2人1組とするのがおすすめです。
1人が現物を確認して数を数え、もう1人が復唱しながら管理表に記録することでダブルチェックができ、ミスを減らすことができます。
商品の数だけでなく品質も確認する
棚卸では在庫の数に目が行きがちですが、必ず品質も確認するようにしてください。
在庫の破損や期限切れ、劣化などを発見したら、すぐに報告する体制を作ることも大切です。棚卸の時点で販売が難しい商品を確実に取り除くことで、誤出荷を防止できます。
作業時間は厳密に管理する
効率的で正確な棚卸のためには、作業時間の管理も重要です。棚卸が長引くと、日常業務への影響が拡大するほか、倉庫の稼働率も下がります。
棚卸をスタートする前に終了時間の目標を決め、管理者が時間を計って進度を確認しながら作業を進めることをおすすめします。無駄に作業時間を長引かせないことで、集中力を切らさず作業を完結できるのもメリットです。
8まとめ:作業の見直しやアウトソーシングで棚卸を効率化しよう
棚卸は、自社の在庫数を知り、利益を確定させる重要な業務です。
煩雑で時間がかかりますが、在庫を抱えるビジネスを行う上で棚卸を避けて通ることはできません。棚卸に課題を抱える場合は、作業手順の見直しと最適化を図り、効率化を進めましょう。自社で対応しきれなければ、アウトソーシングも有効です。
当社では、棚卸や在庫管理を含む物流業務の効率化を検討する企業に向けて、アウトソーシングサービスをご提案しています。お気軽にお問い合わせください。
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