越境ECとは、日本から海外の消費者に向けてEC上で商品やサービスの取引を行うことです。越境ECによって商圏が広がり、多くの顧客を獲得することができます。
しかし、国や地域によって輸出に関する法律や規制などがあるため、何も知らずに越境ECを始めた場合、販売や輸送などでトラブルが起きかねません。
本記事では、越境ECの始め方やメリット、よくある課題や注意点について詳しく解説します。
越境ECで成功するためのポイントについても紹介していますので、ぜひご参考ください。
目次
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1越境ECとは
越境ECとは、日本から海外の消費者に向けて電子商取引を行うことです。
日本国内のEC通販事業者がアメリカや中国などの海外に向けて、自社商品を販売することができるため「販路拡大のひとつ」としても注目されています。
越境ECによって、海外に実店舗を持たなくても販売でき、低コストで開業や運営を行える点がメリットです。近年では越境ECの支援事業をしている企業もあり、貿易のルールや海外の法律に詳しくない人でも、出店しやすくなっています。
越境ECの市場規模
越境ECの市場規模は年々高まっています。経済産業省によると、2019年の越境ECの市場規模は推計で7,800億ドル(約105兆円)であったのに対し、2026年には4兆8,200億ドル(約648兆円)と予測されています。
また、日本の商品における中国とアメリカの越境ECの市場規模は、以下のとおりです。
これにより日本の商品における越境ECの市場規模は、今後も伸びると考えられます。
輸出国 | 令和3年度の越境ECの市場規模 | 前年比 |
---|---|---|
中国 | 2兆1,382億 | 9.7% |
アメリカ | 1兆2,224億 | 25.7% |
2越境ECの出店方法
越境ECの出店方法として、以下の2つがあります。
- ECモール
- 自社ECサイト
ECモール
ECモールは、自社でサイトを構築する必要がないため、手軽に参入しやすい点がメリットです。ただし、販売手数料や競合との価格競争により、利益が減少しやすいデメリットもあります。越境ECでECモールを利用する場合は、以下の2種類が考えられます。
●越境対応型 国内ECモールへの出店
AmazonやZOZOTOWN、Qoo10などは越境ECに対応しており、国内ECモールへの出店と同じ手順で対応できるため、難しい専門知識や手間暇をかけずに商品を海外販売できます。
現地の言語に対応できない場合や、はじめて越境ECを始める場合などに向いています。
●海外ECモールへの出店
広い範囲で海外展開するECモールに出店する方法もありますが、中国であれば「天猫国際(Tmall Global)」、アメリカであれば「eBay」など、現地モールへの出店も一つの手です。
この場合はそれぞれの国のECモールとの交渉が必要になるため、越境EC支援会社などに委託するケースがほとんどです。
自社ECサイト
自社でECサイトを構築して、海外に商品を販売する方法もあります。自社ECサイトの構築方法には、一からサイトを設計する方法やアプリケーションサービスを活用する方法など、自社の予算や設計したいサイトに応じて自由に選ぶことが可能です。
アプリケーションサービスの場合、多言語や国、地域独自の決済方法に対応しているものもあるため、対象地域の言語に詳しくなくても商品の説明文をスムーズに記載できます。
ECモールのように販売手数料が発生せず利益を獲得しやすいですが、初期費用や集客にかかるコストなどが大きくなる可能性があります。
3越境ECのメリット
越境ECのメリットとして、以下の3つがあります。
- 商圏を拡大できる
- 実店舗よりもコストを抑えられる
- 価格競争から逃れられる可能性がある
商圏を拡大できる
越境ECによって、自社商品を国内だけでなく、海外にも販売することが可能です。
現在、少子高齢化が進んでいるなかで日本市場が減少傾向にあると考えられるため、その状況下で売上を拡大するには、海外に商圏を広げて商品を販売する必要があります。
越境ECの場合、人口が約14億人の中国と約3億3,000万人のアメリカの2か国に対応するだけでも、計17億人をターゲットにできるため、商品の購入数増加が期待できます。
実店舗よりもコストを抑えられる
ECサイトの場合は以下のようなコストが発生しないめ、実店舗よりも低コストで始めることが可能です。
- テナントのレンタル費用
- 店舗の内装工事費用
- 現地スタッフの人件費
さらに国内から商品を発送できるため、受注管理やカスタマーサポートを行う事業所の数を最小限に抑えられるなど、経費削減により利益率を高めることができます。
価格競争から逃れられる可能性がある
国や地域によっては「日本の商品は品質が高い」という印象を持たれていることから、その商品が他国の競合商品より多少値段が高くても、購入されることがあります。
国内市場の場合は類似商品と差別化が難しく、価格競争になり利益率が低くなるケースもありますが、越境ECによって「日本のブランド」という付加価値を付けられるため、利益率を維持したまま販売することが可能です。
4越境ECのデメリット
越境ECのデメリットとして、以下の3つがあります。
- 輸送コストが高い
- 手続きによる負担が大きい
- 販売先の国の法律や規制への対応が必要
輸送コストが高い
海外へは国内への輸送よりも輸送距離が長いため、物流コストが高くなります。
たとえば、佐川急便で2kgの商品を関東から北海道に輸送する場合は1,210円で済みますが、中国に配送したい場合は7,700円かかります(23年4月時点)。
そのため、海外の顧客が「輸送コストが高くても購入したい」と思うような商品を提供しなければなりません。
手続きによる負担が大きい
越境対象の国によって手続き方法が異なるため、大きな負担となります。
たとえば、輸出入許可証や通関申告書などの書類を提出し、日本や各国の税関に輸出入の許可を得る必要があります。ほかにも、輸送船や輸送機も手配しなければならないため、貿易業者との手続きも必要です。
販売先の国の法律や規制への対応が必要
国や地域によって法律や規制が異なるため、各国の法律や貿易のルールを遵守する必要があります。商品によって輸出が規制されており、届出が必要なケースも少なくありません。必ず事前確認し、越境ECで販売する商品を決めることが重要です。
5越境ECの始め方
越境ECを始めるには、以下の4つの手順で行います。
- 販売商品を決める
- ターゲットの設定と調査を行う
- 人材を確保する
- 出店方法を選択する
1. 販売商品を決める
初めに越境ECで販売する商品を決め、商品の需要やその国で商品に関わる法律や規制があるかを調査します。
国によっては輸出が禁止されている商品があるため、税関や日本貿易振興機構の公式サイトなどを活用して、入念に調べましょう。商品が決まった後は、在庫の確保と輸送体制の整備を行います。
2. ターゲットの設定と調査を行う
ターゲットが具体的であるほど集客の方向性が定まりやすく、効率的に宣伝活動を行うことができます。そのためにもターゲット設定時には、国や地域だけでなく現地の文化や習慣も合わせて調査することが重要です。
【ターゲット設定項目】
- 性別
- 年齢
- 家族構成
- 年収
- 興味・関心
3. 人材を確保する
海外にまで商圏を広げることによって受注数や問い合わせ数が増えるため、新しく人材を確保しましょう。ターゲット地域の問い合わせに対応できるように、英語やその地域の公用語の語学力チェックが必須になります。
また、現地でトラブルが起きた際に対応できるよう、現地での会社設立も検討しましょう。
4. 出店方法を選択する
目的や予算に合わせて、以下の4つから出店方法を選択します。
- 自社でECサイトを構築する
- 現地で会社を設立し、自社ECサイトを構築する
- 越境対応型 国内ECモールに出店する
- 海外ECモールに出店する
本格的に海外に出店したいと検討している場合は自社ECサイトの構築を、自社で構築するスキルをもたない場合は、構築をアウトソーシングするかECモールを選びましょう。
6越境ECを始める際の注意点
越境ECを始める際の注意点として、以下の3つがあります。
- 越境ECに適さない商品を把握する
- 為替相場によって売上が左右される
- 取引の規制を理解しておく
越境ECに適さない商品を把握する
法律や規制、関税などの影響により越境ECに向いていない商品として、以下の3つがあります。それぞれの関税も考慮して、自社商品を選びましょう。
向いていない商品の種類 | 具体例 |
---|---|
国際郵便(EMS)ができない商品 | ・アルコール飲料 ・マニキュア |
各国の法律で禁止・規制されている商品 | ・特定の化学物質が含有した木製製品(アメリカ) ・古着(中国) |
関税の高い商品 | ・衣料品(税率4.4%~20%) ・菓子類(税率10%~29.8%) |
為替相場によって売上が左右される
越境ECでは海外の通貨で取引されるため、為替相場によって売上が左右されます。
たとえば、円高ドル安時には、ドルから日本円に換金した場合、売上が下がります。
「1ドル=100円」のときに1万ドルの売上があった場合100万円となりますが、円高によって「1ドル=90円」に変化した場合は売上が90万円になり、10万円の損失になるため注意が必要です。売上が減らないよう、商品の価格を為替相場に応じて調整しましょう。
取引の規制を理解しておく
各国で規制されている商品を調査し、自社商品が該当しないか必ず確認しましょう。同時に輸出するために必要な手続きについての把握も大切です。
たとえば、アメリカの場合、食料品や医薬品を販売する場合は、アメリカ食品医薬品局(FDA)に登録することが義務付けられています。
国や地域によってルールが異なるため、トラブルを起こさずに輸送できるよう、国際輸送について学習することをおすすめします。また、自社で越境ECを始めるのが不安な場合は、貿易について詳しい専門家への相談も検討しましょう。
7越境ECの課題
越境ECの課題として、以下の3つがあります。
- 言語の壁
- 幅広い決済方法への対応と不正リスク
- 商標権に関するトラブル
言語の壁
ターゲットにしている海外の消費者がECサイトの内容を理解できるよう、その国の言語に対応できなければなりません。複数の国に販売する場合は、英語や中国語など多言語で対応する必要があります。
Googleの翻訳機能を利用して自社で文章を作ることも可能ですが、表現方法が限られてしまい、細かいニュアンスを伝えられない可能性があります。
また、海外からの問い合わせに対して、その消費者に通じる言語でコミュニケーションを取る必要があるため、日本のスタッフだけで対応するのは困難です。そのため、問い合わせ対応を現地で外注することも検討しましょう。
幅広い決済方法への対応と不正リスク
国によって頻繁に利用される決済方法が異なるため、各国で需要の高い決済方法に対応することが望まれます。たとえば、アメリカでは「PayPal」を利用している消費者が多く、中国では「WeChat Pay」や「Alipay」などが一般的に利用されているため、販売先に応じてさまざまな決済方法に対応できるようにしましょう。
また、海外のクレジットカードに対応することも大切ですが、カードの不正利用による注文の対策も必要です。特に自社でサイトを構築する場合は、不正利用検知システムの導入や保険の契約などを実施し、不正リスクに対応しましょう。
商標権に関するトラブル
現在、販売する国で商標権を登録せず、現地会社や他の会社が商標登録されてしまうケースが少なくありません。もし商標権を取られてしまった場合、その国で自社商品を販売することが難しくなり、撤退しなければならない場合もあります。
トラブルを回避するためにも、越境ECを始める前に必ず自社で商標登録をしておきましょう。
8越境ECを成功させるポイント
越境ECを成功させるポイントとして、以下の2点があります。
- 文化の違いによる顧客ニーズを意識する
- 物流トラブルに対応できるようにする
文化の違いによる顧客ニーズを意識する
その国の文化や習慣、気候などの違いによって、消費者の購買動向や市場規模は大きく異なります。そのため、商品を販売する際は人口の多さだけで選ぶのではなく、その国で自社商品の需要があるかを把握してから販売するようにしましょう。
物流トラブルに対応できるようにする
海外向けの場合、輸送にかかる時間や工程が多く、国内よりも物流トラブルが発生しやすくなるため、商品の輸送状況をいつでも把握できる状態にすることが重要です。在庫管理システムを導入し、自社商品の輸送に関わる企業といつでも連絡を取れる体制を整備して、輸送状況をリアルタイムで把握できるようにしておきましょう。
また、輸送中の商品の破損リスクを抑えるためにも、厳重な梱包もポイントです。
9まとめ:越境ECで売上を拡大しよう
越境ECで多言語や海外の通貨、決済方法に対応することによって商圏を拡大でき、多くの消費者に商品を販売することができます。ただし、各国によって法律や規制があるため、必ず事前に調査してから販売する商品を決め、越境ECを始めましょう。
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