在庫管理は、小売業や製造業にとって、経営の生命線ともいうべき業務です。在庫管理がおろそかになると、販売機会の逸失につながる在庫切れや、経営を圧迫する余剰在庫を発生させる可能性があります。手軽に、かつ確実に在庫を管理するためには、見やすい在庫管理表を作成しなければなりません。
本記事では、在庫管理表のメリットや見やすい在庫管理表を作るためのポイントのほか、エクセルで簡単に在庫管理表を作る方法と具体例などを解説します。併せて、在庫管理表に記載すべき基本的な項目や、在庫管理表で失敗しないためのポイント、在庫管理システムなどについても紹介します。
目次
1在庫管理表とは
在庫管理表は、企業の倉庫などに保管されている在庫を適切に管理するための表です。
在庫とは、販売すること、または使用することを目的として保管・所有している物を指します。
小売店であれば完成品、製造業であれば商品の原材料や部品、一部完成品が在庫に該当し、どの企業も自社内、あるいは倉庫に多くの在庫を抱えています。在庫切れや余剰在庫を防ぐには、これらを適切に管理する必要があります。
しかし、大量の在庫を人の記憶に頼って管理するのは、現実的ではありません。また、倉庫作業や発送作業に関わる従業員それぞれが自分の記憶を頼りに仕事をしてしまうと、業務の不確実性が高まります。
そこで、入庫数・出庫数・在庫数などを表にまとめて客観的なデータとして正しく把握・共有し、在庫切れや余剰在庫発生のリスクをひと目で確認できるようにするために、在庫管理表を活用します。
<在庫管理表に記載する主な項目>
- 商品をいくつ仕入れたか
- 保管している商品がどれくらいあるか
- 商品をいくつ出庫したか
- 仕入れた日
- 入庫した日
- 出庫した日
2在庫管理表を作るメリット
在庫管理表を作るメリットは、最新の在庫状況を把握できることです。
在庫管理ができていないと、社内や倉庫にどれだけの商品や原材料があるのか、現状を正確に把握することができません。それにより、下記のようなリスクが発生します。
<在庫管理ができていない場合のリスク:一例>
- 注文を受けた際、出荷できる数量を即答することができず他社で注文されてしまう
- あると思っていた在庫がなく、顧客の要望に応えられない
- かなり前に入荷した商品が手つかずのまま残り、品質が劣化して無駄にしてしまう
- 商品の取り違えといったヒューマンエラーが多発する
在庫管理表を作ると在庫状況を把握できるようになり、経営にダメージを与える在庫切れや余剰在庫のリスクが可視化されます。
すると、商品の品質を劣化させることなく、最善のタイミングで出荷することができるようになります。出荷作業やスケジュール管理がスムーズになり、結果として顧客満足度も向上させることができるのです。
3見やすい在庫管理表を作る際のポイント
適切な在庫管理のためには、ただ在庫管理表を作れば良いというものではありません。
誰が見ても在庫状況を把握できるように、見やすく、記入しやすいものにする必要があります。そのためには、下記の4点を押さえることが必要です。
情報を明確化する
在庫管理表を作成する際には、漠然と情報を記録するのではなく、
「いつ(入庫日、出庫日)」「何が(商品名、商品コード)」「どれくらい(数量)」
の3点を明確化することを意識しましょう。
特に、製造年月日や消費期限の管理が品質に直結するような原材料や商品は、
「いつ入庫したのか」を明確に記録し「いつまで保管しておけるのか」を把握することが重要です。「いつ」「何が」「どれくらい」の3つの情報を在庫管理表に記入することはもちろん、記入するタイミングも決めておくと漏れがなくなります。
在庫プロセスを明確化する
在庫には「入庫」「出庫」「保管」のプロセスがあります。
「いくつ入れたか」「いくつ出したか」「今、いくつあるのか」が正確に把握できるように、商品の3つのプロセスも記録しておかなければなりません。
在庫の場所を記録する
商品の場所が移動する場合、「いつ」「何が」「どれくらい」と併せて、「どこに(場所)」を記録することも重要です。どこからどこに、何がいくつ移ったのかを継続的に記録することで、倉庫内での商品探しに割かなければならない時間が削減できます。
見た目を統一し、わかりやすく書く
せっかく在庫管理表を作っても、作成者にしかわからない書き方だったり、表ごとに内容や項目の順番にばらつきがあったりすると、使い勝手が悪く利用率が上がりません。書くべき情報に漏れがないことはもちろん、見た目の統一感やわかりやすさも意識しましょう。
4見やすい在庫管理表はエクセルで作ることも可能
見やすい在庫管理表を手軽に作る方法としては、エクセルを活用するという選択肢もあります。
会社支給のPCにはエクセルが予めインストールされていることが多く、コストを抑えながら在庫管理表を作成することが可能です。
ただし、便利な点ばかりではなく、注意しなければならない点もあります。
エクセルの在庫管理表のメリット・デメリットとしては下記のようなものが挙げられるため、それらを踏まえて活用するか否かを判断しましょう。
エクセルで在庫管理表を作るメリット
一定の経験を積んだ社会人であれば、エクセルにふれたことがないというケースは少ないと思われます。エクセルは広く普及している高機能な表計算ソフトのため、エクセルを用いた在庫管理表を作ることには、下記のようなメリットがあります。
すぐに始められる
Windows PCは企業で広く使われているため、多くの企業ですぐにエクセルの在庫管理表を作ることができます。社内にはすでにエクセル操作に慣れている人も多いのではないでしょうか。特別な準備や必要な事前知識が少なくて済むことが、エクセルの大きなメリットです。
計算ミスを減らして負荷を軽減できる
エクセルには自動計算をはじめとした便利な機能があり、うまく活用すれば業務効率が飛躍的に向上します。人力の作業に比べて、ミスを大幅に削減することが可能です。
コストが低く抑えられる
エクセルを機能制限なしで使うには、サブスクリプション版・買い切り版・PCとセットのプレインストール版のいずれかで、ソフトの利用料金を支払う必要があります。
このうち、企業が社用PCを購入する際は、プレインストール版を同時購入しているケースが多く、その場合は追加コストは不要です。また、買い切り版を購入する際は最初に一定料金を支払うだけで無制限に使用できるため、コストを低く抑えることが可能です。
在庫管理システムを導入する場合は、初期投資でまとまった費用が必要となり、新たに人員を配属したり、操作方法を学ぶ必要があるため、人件費やシステム開発費、研修費などの費用が必要になります。
エクセルで在庫管理表を作るデメリット
エクセルで在庫管理表を作ることにはメリットがありますが、デメリットも存在します。
あくまでエクセルは表計算ソフトであり、在庫管理に特化したソフトではないため、場合によっては下記の3点がボトルネックになります。
商品数や拠点数によっては対応が難しい
取り扱い商品数が多い場合、エクセルの在庫管理は向いていません。商品数が多いと一覧にまとめるのが難しくなり、情報の検索や更新に時間がかかってしまうためです。
また、倉庫拠点が多い場合も、エクセル以外の在庫管理がおすすめです。複数拠点で1つのエクセル在庫管理表を編集・閲覧する場合は、「ブックの共有」機能を使うことで共同管理は可能ですが、一部の機能が制限されてしまうため、使い勝手が悪くなってしまいます。
データ量が増えると動きに影響が出る
エクセルはあくまでも表計算ソフトで、大量データを処理できるようには作られていません。そのため、商品数や可視化したい項目が増えると、表示するまでに時間がかかるなど、ソフトの動きに大きな影響が出ます。
効率を高めるはずの在庫管理表が作業を停滞させないよう、扱う商品の規模や担当部署のニーズに合わせて使用を判断することが重要です。
データが上書きできてしまう
エクセルのデータは、複数名で共有して誰でも簡単に編集することができます。
この点は在庫の状況をスピーディーに反映する上ではとても便利である一方、ファイルを開いた人の誤操作でデータの変更や消去が起きてしまう可能性があることに注意が必要です。
上書きや消去の作業をした人を突き止めることはできても、改変されたデータを元に戻すのは容易ではありません。この点は、上書きを原則禁止にして、追加修正しかできないようにルールを設定するなどの対応が必要です。
5エクセルによる見やすい在庫管理表の作り方
エクセルの在庫管理表は、大きく「単票タイプ」と「在庫移動表タイプ」に分けられます。
それぞれの作り方を、具体例も交えて紹介します。
単票タイプの在庫管理表
単票タイプの在庫管理表は、特定商品の在庫の動きを把握したい場合に向いている在庫管理表です。1つの商品の入庫数、出庫数、在庫数、在庫チェックをした担当者名などを1つの在庫管理表にまとめ、管理します。
商品番号 | 2023A001 | |||
---|---|---|---|---|
商品名 | ◯◯◯◯ | |||
金額 | ¥●●●● | |||
日付 | 入庫 | 出庫 | 在庫数 | 担当者 |
先月繰越 | 100 | |||
4/1 | 10 | 110 | 鈴木 | |
4/2 | 30 | 80 | 佐藤 | |
4/3 | 10 | 70 | 田中 | |
4/4 | 50 | 120 | 高橋 | |
今月繰越 | 120 | |||
再入荷の要否 | ||||
保管場所 | ●●● |
在庫移動表タイプの在庫管理表
在庫移動表タイプの在庫管理表は、複数商品の在庫を一覧で把握したい場合に向いている在庫管理表です。目当ての商品を見つけやすく、よく似た複数の商品の状況を簡単に比較できることもメリットです。ただし、単票タイプに比べて記載できる情報量に限りがあるため、別途商品ごとの在庫管理表を作成しなければならないこともあります。
商品番号 | 商品名 (価格) |
先月 繰越 |
再入荷 の要否 |
合計数 | 日付 | 4/1 | 4/2 | 4/3 | 保管場所 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
2023A001 | ◯◯◯◯ (¥●●●●) |
100 | 50 | 出庫 | 10 | 10 | 30 | ●●● | |
0 | 入庫 | ||||||||
― | 在庫 | 90 | 80 | 50 | |||||
2023A002 | △△△△ (¥●●●●) |
50 | 0 | 出庫 | ●●● | ||||
50 | 入庫 | 50 | |||||||
― | 在庫 | 50 | 100 | 100 | |||||
2023B001 | □□□□ (¥■■■■) |
100 | 50 | 出庫 | 30 | 20 | ◆◆◆ | ||
40 | 入庫 | 40 | |||||||
― | 在庫 | 70 | 90 | 90 | |||||
2023B002 | ×××× (¥◆◆◆◆) |
120 | 0 | 出庫 | ◆◆◆ | ||||
0 | 入庫 | ||||||||
― | 在庫 | 120 | 120 | 120 |
1枚のシートに記載される情報が多く視認性が悪い場合は、「入庫」「出庫」などのプロセスでシートを分けるのもおすすめです。プロセスごとにシートを分けることで、情報を入力する場所がわかりやすくなり、人的ミスも削減できます。
6見やすい在庫管理表に必要な項目
在庫管理表に決まったフォーマットはありません。
商品の特徴や自社の業務特性などに従って記載項目を決めるという方法で問題ありませんが、下記は最低限入れておきたい項目です。
日付
入庫日、出庫日など、在庫に動きがあった日付を入力します。
商品番号
英字や数字を用いた任意の番号を、商品ごとに割り振ったものが商品番号です。同じ形で色やサイズにバリエーションがある場合など、類似した商品を区別する際に役立ちます。
商品名
商品番号と併せて商品名も記入することで、よりスピーディーな商品情報の把握が可能です。
数量
入庫数、出庫数、在庫数(入庫数-出庫数)を日々記録します。これにより、商品の不足をいち早く予見し、最新の在庫から出庫可能な数量を速やかに判断することができます。
再入荷の要否
数量の項目の近くに、「再入荷の要否」を記入できる欄を設けましょう。適正な在庫数を割っていれば、再入荷の判断をする必要があります。
金額
在庫管理表には、商品の単価も記載すると便利です。これにより、売上全体に占める各商品の売上高も把握できます。
保管場所
倉庫が広い場合や、商品が倉庫内を移動している場合など、商品が現在保管されている場所の把握が難しくなることがあります。そのため、保管している場所も随時記載しておくことが必要です。
7エクセルの在庫管理表で失敗が起こる原因
在庫管理表を作っても、うまく活用できずに在庫切れなどが発生してしまう場合があります。そのようなミスが起きる原因としては、下記の2点が考えられます。
必要な情報が網羅されていない
テンプレートを使用すると楽に在庫管理表を作成できますが、重要なのは自社の状況に合った項目を網羅していることです。テンプレートそのままでは、自社に必要な項目が含まれていない可能性があります。自社に合わせてカスタマイズすることが重要です。
管理・更新がうまくいかない
在庫管理表は、継続して入力し、正しく管理することで効果を発揮します。
エクセルの在庫管理表を使用する際には、入力にかかる手間を極力省き、関係者全員が大きな負担なく入力できるようにしなければなりません。在庫管理表自体を見やすくすることや、入力・更新のルールをわかりやすいものにすることがポイントです。
1人の従業員に担当業務を集中させてしまうと、属人化して柔軟な対応ができなくなるため、関係者全員に研修を実施して管理方法を浸透させ、持ち回りで管理するようにしましょう。
8エクセルの在庫管理表が機能しない場合、在庫管理システムの導入がおすすめ
エクセルは在庫管理表を作成するのに適したツールですが、ルールが煩雑になりすぎると、管理の手間が増え、入力漏れや記載ミスが起きる可能性があります。また、商品数が多い場合や入出庫が頻繁な場合も、エクセルの在庫管理表は不向きです。
エクセルの在庫管理表に限界を感じたら、在庫管理システムの導入も検討しなければなりません。在庫管理システムは、入庫、出庫、在庫数など、在庫に関するすべての情報をシステム上で一元的に管理できるものです。
商品カテゴリなど指定条件の検索で、出庫予定の商品数がすぐに把握できるだけでなく、在庫数の増減状況から売れ筋商品・売れ残り商品の分析も可能です。在庫データの収集・管理・分析が容易になるため、在庫の品質も維持されて、売上アップにつなげることもできます。
自社に合った機能を搭載した在庫管理システムを導入することができると、大きな効果を感じることができるでしょう。
9まとめ:見やすい在庫管理表で効率的な在庫管理をしよう
在庫管理は、継続することが何より重要です。見やすく、使いやすい在庫管理表を作り、関係者全員での管理を継続できる状態にする必要があります。
在庫管理に対する意識が高まり、さらに管理の品質を上げたいときや、エクセル管理がうまくいかないときは、システム導入が有効な手段となります。在庫管理に課題をお持ちの際には、豊富なノウハウを持つスクロール360にお気軽にお問い合わせください。
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