運送業のドライバー不足の原因には、低賃金・長時間労働などの労働条件の悪さや、近年の宅配便取扱個数の増加が挙げられます。2024年4月からは関連法の改正によって、よりドライバー不足が加速することが懸念されているため、解消するための対策が必要です。
本記事では、運送業のドライバー不足の原因と2024年問題、改善するための対策を解説します。
目次
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1ドライバー不足の実態
一般社団法人日本物流団体連合会と株式会社日通総合研究所が2021年に発表した「物流標準化と物流現場の現状」によると、ドライバー人口は平成7年の98万人をピークとし、平成27年には76.7万人に減少しています。
さらにトラック運転者の有効求人倍率を見ると、全産業平均が1.0~2.0倍で推移しているのに対し、ドライバーは2倍前後で推移しており、需要に対して求職者が足りていないのが現状です。
以上の2点から、ドライバー人口が減少しているにもかかわらず需要は高く維持されており、ドライバー不足の実態があるといえます。
2ドライバー不足の原因
運送業のドライバー不足の原因には、主に以下の6つが考えられます。
- 全産業と比較して賃金が低い
- 全産業と比較して労働時間が長い
- 女性ドライバーの割合が少ない
- ドライバーの高齢化が進んでいる
- 宅配便取扱個数が増加している
- 運転免許制度が改正された
全産業と比較して賃金が低い
厚生労働省のデータを見ると、運送業のドライバーは全産業平均と比較して26~58万円ほど年間所得額が低いことがわかります。
産業 | 年間所得額 |
---|---|
全産業平均の労働者 | 489万円 |
大型トラックの運転者 | 463万円 |
中小型トラックの運転者 | 431万円 |
(参考:トラック運転者の年間所得額/厚生労働省)
全産業と比較して労働時間が長い
厚生労働省のデータを見ると、運送業のドライバーの年間労働時間は、全産業平均と比較して372~432時間も長いことがわかります。
産業 | 年間労働時間 |
---|---|
全産業平均の労働者 | 2,112時間 |
大型トラックの運転者 | 2,544時間 |
中小型トラックの運転者 | 2,484時間 |
(参考:トラック運転者の年間労働時間/厚生労働省)
トラックドライバーの長時間労働は、平成26年から令和3年まで大きく変わっておらず、労働環境が改善されていないことがうかがえます。こうした実態が、運送業のドライバーのなり手がいない原因の1つです。
和暦 | 大型トラック運転者の年間労働時間 | 中小トラック運転者の年間労働時間 |
---|---|---|
平成26年 | 2,592時間 | 2,580時間 |
平成27年 | 2,616時間 | 2,580時間 |
平成28年 | 2,604時間 | 2,484時間 |
平成29年 | 2,592時間 | 2,580時間 |
平成30年 | 2,580時間 | 2,568時間 |
令和元年 | 2,580時間 | 2,484時間 |
令和2年 | 2,532時間 | 2,484時間 |
令和3年 | 2,544時間 | 2,484時間 |
2024年4月から、法改正によってドライバーの労働時間の上限規制が設けられるため、長時間労働の改善が期待されています。しかし、ドライバーにとって労働時間の減少は収入減につながるため、懸念の声も上がっています。
ドライバー不足解消のために労働環境を改善する場合、長時間労働と低賃金の両方の課題解消が必要です。
女性ドライバーの割合が少ない
女性ドライバーの割合を見ると、全産業が44.7%であるのに対し、ドライバーは20.1%と半分以下となっています。このことから、全産業と比較してもドライバーの女性進出が遅れているといえます。
その原因として、力仕事が難しいなどで業務内容が限定されてしまうことや、事業所や休憩場所の女性用施設が整備されていないことなどが考えられます。
(参考:女性の進出状況/厚生労働省)
ドライバーの高齢化が進んでいる
運送業のドライバーの平均年齢を見ると、全産業平均と比較して4.0~6.5歳ほど高いことがわかります。
産業 | 平均年齢 |
---|---|
全産業平均の労働者 | 43.4歳 |
大型トラックの運転者 | 47.4歳 |
中小型トラックの運転者 | 49.9歳 |
(参考:トラック運転者の平均年齢/厚生労働省)
さらに、就業者の年齢構成比において、ドライバーの45~59歳の割合は45.3%と高い傾向にあります。
産業 | 29歳以下の割合 | 45~59歳の割合 |
---|---|---|
全産業の労働者 | 16.5% | 33.8% |
トラックの運転者 | 10.0% | 45.3% |
(参考:就業者の年齢構成比/厚生労働省)
全産業と比較しても、ドライバーは若手が少なく高齢化が進んでいます。今後、退職者の増加も予測されるため、ドライバーの高齢化がドライバー不足を加速させる原因の1つとして懸念されているわけです。
宅配便取扱個数が増加している
宅配便取扱個数は、令和元年を境に増加しています。増加の背景には、新型コロナウィルスの流行によって、EC通販の需要が高まったことが挙げられます。
和暦 | 宅配便取扱個数 |
---|---|
平成29年 | 43億個 |
平成30年 | 43億個 |
令和元年 | 43億個 |
令和2年 | 48億個 |
令和3年 | 50億個 |
(参考:宅配便の取り扱い個数/厚生労働省)
日本経済研究センターの予測によると、2035年には88億個になるとされており、現状のドライバー人口を維持できたとしても、対応できなくなると考えられます。このように、ドライバー不足にもかからわず、宅配便取扱個数が増加していることから、事態の深刻化が懸念されています。
(参考:EC(電子商取引)化の進展で、2035年には宅配便は倍増/公益社団法人 日本経済研究センター)
運転免許制度が改正された
平成29年に運転免許制度の改正によって準中型免許が新設されたことで、それまで普通免許で運転可能だった2トントラックが運転できなくなりました。これにより、ドライバーとして働くために運転免許を新たに取得しなければならないケースも出てきました。
免許の種類 | 車両総重量 | 最大積載量 |
---|---|---|
普通 | 5トン未満 | 3トン未満 |
中型 | 5トン以上11トン未満 | 3トン以上6.5トン未満 |
大型 | 11トン以上 | 6.5トン以上 |
免許の種類 | 車両総重量 | 最大積載量 |
---|---|---|
普通 | 3.5トン未満 | 2トン未満 |
準中型 | 3.5トン以上7.5トン未満 | 2トン以上4.5トン未満 |
中型 | 7.5トン以上11トン未満 | 4.5トン以上6.5トン未満 |
大型 | 11トン以上 | 6.5トン以上 |
(参考:免許の種類と運転可能な車両区分/全日本トラック協会)
普通免許を所持しており準中型免許を取得する場合、費用の負担が発生します。このように、平成29年3月12日以降に免許を取得した若年層の負担が大きく、新規参入の妨げになっています。
3ドライバー不足を加速させる物流の2024年問題
運送業のドライバー不足を加速させる要因に、物流の2024年問題があります。2024年問題とは、働き方改革関連法の施行によって、ドライバーの時間外労働の上限が960時間以内に制限されることで起きる問題です。
ドライバーの時間外労働が制限されると、ドライバーの収入も減少します。もともと全産業と比べて低賃金であるにもかかわらず、さらに収入が減少することになると、新規参入が減少することが容易に予測できます。
他にも、休息時間を9時間以上確保するインターバル制度の導入もあり、ドライバーの増員が必要です。既に不足している人手をどのように補うのかは、運送業界での大きな課題といえます。
4ドライバー不足の将来予測
株式会社NX総合研究所の調査データによると、運送業のドライバー不足が深刻化することがわかります。
年度 | 需要量 | 供給量 | 不足量 |
---|---|---|---|
2020年度 | 105万3,365人 | 100万6,759人 | 4万6,606人 |
2025年度(予測値) | 115万7,763人 | 101万2,147人 | 14万5,616人 |
2030年度(予測値) | 118万4,393人 | 97万307人 | 21万4,086人 |
(参考:「物流の202年問題」の影響について(2) P12/株式会社 NX総合研究所)
2020年度時点で、トラックドライバーは4万人以上も不足しており、2030年度にはさらに約5倍の21万4,086人の不足となる見込みです。供給量を見ると、予測値は2020年度以降減少しており、ドライバー不足のまま需要が増加していくというアンバランスな状態です。
このような状況下では、物流が滞る可能性が高いため、国は「物流革新緊急パッケージ」のように改善に向けてさまざまな対策を講じています。
荷主や消費者のニーズに応えられなくなることから、運送事業者による対策も必要です。
5ドライバー不足の対策方法
ドライバー不足の対策方法は主に以下の6つが挙げられます。
- ドライバーの労働環境を改善する
- モーダルシフトを導入する
- 共同配送を導入する
- 中継輸送を導入する
- 物流拠点を分散する
- デジタル化によって配送を効率化する
ドライバーの労働環境を改善する
運送業のドライバーにとって、働きやすい労働環境に改善が必要となります。その中でも、ドライバー不足の原因となっている長時間労働と低賃金の対策が急務です。また、女性ドライバーが働きやすい環境づくりも大切です。
ドライバーとして働きたいと思える環境づくりが、求人に対する応募数を増やすことにつながります。
モーダルシフトを導入する
モーダルシフトとは、トラックによる陸上輸送の代わりとして、鉄道や船舶を活用した輸送方式に移行することです。これにより、トラックによる長距離輸送が削減できるため、ドライバーの長時間労働が解消されます。
また、今後増えていく荷量にも対応できるようになるメリットがあり、トラックによる輸送に比べて環境負荷が少ないことも魅力の1つです。
ただし、配送リードタイムが延びる可能性や輸送方式の転換による人員配置、業務の見直しが必要となります。
共同配送を導入する
共同配送とは、複数の運送事業者が協力して、同一の納品先へ荷物を運ぶ方式です。共同配送の拠点に荷物を集めることで、納品先へ向かうトラックとドライバーの数を削減できます。
共同配送は、どの運送事業者も同じように抱える人手不足の課題を解消するだけでなく、長時間労働の削減にもつながります。ただし、共同配送を行う事業者同士の情報共有や調整が必要となるため、新たな業務が増える可能性があります。
中継輸送を導入する
中継輸送とは、事業所から中継地点へ荷物を運び、中継地点から納品先へ輸送する方式です。ドライバー1人あたりの輸送距離が短縮されるため、長時間労働の改善を見込めます。中継拠点の位置によっては、通常輸送よりも配送リードタイムを短縮できる可能性もあります。
ただし、中継輸送の方式によっては、荷物の積み替え作業が増えることもあるため、業務の効率化も含めたプランニングが必要です。
物流拠点を分散する
物流拠点を分散すると、1運行あたりの輸送距離が短縮されるため、ドライバーの長時間労働の改善が見込めます。長距離輸送の負担も軽減できることから、長時間の拘束が参入障壁の1つとなっていた子育て世帯や女性の参入も期待できます。
ただし、物流拠点の分散によって拠点が増えると、管理業務も増えるので注意が必要です。実態に応じて、在庫管理や物流運営をアウトソーシングし、効率化を検討しましょう。
デジタル化によって輸送を効率化する
AIやIoTの導入によるデジタル化によって、輸送関連業務を効率化することで、ドライバーの負担軽減につながります。たとえば、AIの活用によって配車計画や輸送ルートが最適化されると、輸送距離が短縮され、ドライバーの拘束時間を削減できます。
その他にも、事務作業の効率化にもつながるため、業務全体の生産性アップを見込めます。ただし、デジタル化にはシステムの導入や維持費用がかかるため、綿密なコストシミュレーションのもと、慎重に検討することが大切です。
6ドライバー不足解消に向けた取組事例
ドライバー不足解消に向けた取組事例を3つ紹介します。
- 女性が参入しやすい環境づくり
- 入社後に免許取得できる制度を構築
- 1人1車制を廃止し長距離運転の負担を軽減
女性が参入しやすい環境づくり
荷主に協力を仰ぎ、荷積みや荷卸しに対応してもらうことで重労働の削減に成功し、女性が参入しやすい環境づくりを実現した例があります。
最初は断られる傾向にありましたが、根気よく相談することで受け入れてもらえるようになりました。これにより、女性ドライバーは育児を含むライフスタイルに合わせて柔軟に働くことができるようになりました。
今後はさらに、子どもの送迎を事業所で対応する施策を検討しています。
(参考:トラック運送業の人材確保に向けた好事例集 P3/国土交通省)
入社後に免許取得できる制度を構築
入社後に運転免許を取得できる制度を設けたことで、ドライバー未経験や普通免許のみの場合でも就業しやすくなった例があります。
本人が納得できるまで先輩の同乗研修を受けられることもあり、経験が浅くても安心して業務に従事できます。異業種からの転職や未経験者が参入しやすくなることで、ドライバー不足の解消を期待できます。
(参考:トラック運送業の人材確保に向けた好事例集 P5/国土交通省)
1人1車制を廃止し長距離運転の負担を軽減
1車を2人で運行し、1人1車制を廃止した例があります。これにより、長距離運転の負担とともに長時間労働が改善され、2024年問題の1つである労働時間の上限規制に対応できます。
長時間運転が削減できると、高齢のドライバーの肉体的負担の軽減につながるため、長く働くことも可能となります。
7まとめ:運送業のドライバー不足対策で2024年問題に備えよう
運送業のドライバー不足の原因には、低賃金および長時間労働といった労働環境の問題や宅配便取扱個数の増加など、さまざまな要因があることがわかりました。
2030年度には、21万4,086人のドライバーが不足するとの予測もあり、対策は急務です。何か1つ対策を打てば解消するものではありません。
労働環境や教育制度の改善、女性の積極採用、新しい輸送手段の導入、システム化など、できる対策から少しずつ取り組み、2024年問題に備えましょう。
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