定量発注方式とは、「この値を下回ったら発注する」と設定した在庫数(発注点)を下回った際に、あらかじめ決めておいた一定量を発注する方法です。在庫数をベースにした発注方式のため、在庫の過不足が起こりにくく、発注点を適切に管理することで発注量が一定になるメリットがあります。
本記事では、定量発注方式について解説するとともに、定期発注方式との違いや発注点の計算方法について解説します。
目次
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1定量発注方式とは
定量発注方式とは、商品ごとに定めた在庫数の閾値(発注点)を下回った際に、あらかじめ決めておいた一定量を発注する方法です。
発注点を設定しておけば、発注タイミングが決まるため、発注作業に割く時間と手間を削減できます。
需要変動が安定した商品管理には適していますが、変動が激しい商品管理だと欠品が起こりやすいケースがあるため、定量発注方式が自社商品に適しているかの判断が必要です。
定期発注方式との違い
発注方式 | 発注タイミング | 発注量 |
---|---|---|
定量発注方式 | 事前に設定した在庫数(発注点)を下回ったタイミング | 事前に決まっている |
定期発注方式 | 毎週・毎月・3ヶ月ごとなど、事前に設定したタイミング | 発注ごとに計算する |
定期発注方式は、発注ごとに発注量を計算する手間はかかりますが、需要変動が大きく、発注量が変わりやすい商品に適しています。
2定量発注方式と定期発注方式の選び方
定量発注方式と定期発注方式の選び方を、以下4つの観点から解説します。
- ABC分析による重要度
- 1回あたりの発注量
- 商品の価格
- 需要の増減
ABC分析による重要度
ABC分析とは、商品の「売上」「コスト」「在庫数」といった指標をもとに、重要度が高いものから「A→B→C」とランク付けを行い、管理する方法です。それぞれのランクに応じた発注方式を採用することで、業務負担の軽減が可能です。
【ABC分析による商品分類の例】
重要度 | 商品の特徴 | 適しているな発注方式 |
---|---|---|
Aランク | 需要変動が大きく、高価 売上に繋がりやすい | 定期発注方式 |
Bランク | 需要変動が少なく、高価 やや売上に繋がりやすい | 定量発注方式 |
Cランク | 需要変動に波はあるものの、安価 売上に繋がりにくい | 定量発注方式 簡易発注方式 同期化発注方式 |
Bランクの商品は需要変動が少ないため、Cランクの商品はやや需要変動があるもののAランクの商品に比べて売上に繋がりにくいため、多くの手間をかけずに管理ができる定量発注方式を採用します。
これに対し、Aランクの商品は需要変動が大きく高価なため、欠品や余剰在庫が起こると売上に大きく影響が出てしまうため、発注量を都度計算できる定期発注方式が適しています。
1回あたりの発注量
1回あたりの発注量の変動が大きい商品は、最適な発注量を管理できる定期発注方式が適しています。反対に、1回あたりの発注量に変動がなく安定している商品は、定量発注方式の方が効率的に管理できます。
商品の価格
商品の単価が高い場合は、在庫切れによる機会損失や余剰在庫を抱えると売上に大きく影響するため、発注量をこまめに調整できる定期発注方式が適しています。
これに対し単価が安い場合は、在庫切れによる機会損失や余剰在庫を抱えるリスクが低いことから、定量発注方式を採用することが一般的といわれます(状況によって異なります)。
需要の増減
需要の増減が大きく、需要予測が難しい商品の場合は、急な需要にも対応できる定期発注方式でこまめに発注量を管理する必要があります。これに対し需要が安定している商品の場合は、一定量の発注で良いため、定量発注方式が適しています。
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3定量発注方式の計算方法
定量発注方式の計算方法について、以下2つの計算式を用いて解説します。
- 発注点を決める計算式
- 発注量を決める計算式
発注点を決める計算式
発注点 = 1日あたりの平均出荷数 × 発注リードタイム + 安全在庫
【各要素の解説】
要素 | 意味 |
---|---|
発注点 | 発注タイミングを決める基準となる在庫数 |
1日あたりの平均出荷数 | 対象となる商品の1日あたりの出荷数の平均値 |
発注リードタイム | 商品を発注してから届くまでにかかる調達日数 |
安全在庫 | 欠品に備えて用意しておく必要な在庫のこと |
安全在庫の計算式
安全在庫 = 安全在庫係数 × 使用量の標準偏差 × √(発注リードタイム+発注間隔)
【各要素の解説】
要素 | 意味 |
---|---|
安全在庫係数 | 「1 – 欠品在庫許容率」で求められる係数 欠品在庫許容率は、商品の在庫数に対して支障が出ない欠品数の割合 |
使用量の標準偏差 | 商品の使用数、出荷数、販売数の平均値 |
発注間隔 | 発注後から再発注までの期間 |
安全在庫と似た言葉に適正在庫がありますが、意味と計算方法が異なるため注意が必要です。
発注量を決める計算式
定量発注方式で求める発注量とは、年間在庫関連費が最小化する「1回あたりの発注量」を指す、経済的発注量のことです。
経済的発注量 = √{(2 × 1回あたりの発注費用 × 年間必要量)÷ 年間在庫保管費用 }
【各要素の解説】
要素 | 意味 |
---|---|
経済的発注量 | 発注点に至った商品の発注量のことで、 ある期間の発注費用と在庫費用の合計値を最小化したもの |
1回あたりの発注費用 | 対象商品の1回あたりに発生する発注費用 |
年間必要量 | 対象商品の1年間に必要な在庫数 |
年間在庫保管費用 | 1年間あたりの在庫保管にかかる費用で「庫品の単価 × 在庫費用率」で算出 |
4定量発注方式のメリット
定量発注方式のメリットは、以下の2つが挙げられます。
- 発注関連コスト(在庫総費用) を抑えられる
- 発注の手間を削減できる
発注関連コスト(在庫総費用) を抑えられる
まず定量発注方式での発注量は前述のとおり、発注関連コストを最小限に抑えて算出する「経済的発注量」を適用しています。そのため、定量発注方式を採用すると発注関連コストが抑制できるという仕組みになっています。
発注の手間を削減できる
定量発注方式は、発注点と経済的発注量を事前に設定しておくことで、発注点を迎えたタイミングに一定量を発注するシンプルな作業のため、発注業務の負担が軽減できることがメリットです。
現場の発注業務の負担が大きい場合は、商品の適正に合わせて定期発注方式から定量発注方式へ切り替えることで軽減が可能になるかもしれません。
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5定量発注方式のデメリット
定量発注方式のデメリットは、以下の2つが挙げられます。
- 急な需要変動への対応が難しい
- 余剰在庫の発生リスクがある
急な需要変動への対応が難しい
定量発注方式は決まった一定量を発注するため、急な需要の増減への対応ができません。定量発注方式は、需要変動が少なく安定した商品に対して有効であることから、状況によって発注方式を切り替えることが重要です。
余剰在庫の発生リスクがある
定量発注方式では決まった一定量を発注するため、急な需要低下の際に余剰在庫になる可能性があります。余剰在庫は在庫コストの増大に繋がるため、以下のような改善が必要です。
- 需要の増減が見られた場合は、発注点と発注量の見直しを行う
- 需要変動が大きくなった際は、発注方式そのものを見直す
6定量発注方式が適しているもの
定量発注方式が適している条件は、主に以下の5つです。
- ABC分析による重要度が比較的低い
- 1回あたりの発注量に増減がない
- 商品の単価が安い
- 需要の急な増減がなく一定
- 長期間保管が可能
これらの条件のうち1つだけではなく、複数にあてはまるものが定量発注方式に適しています。総合すると、需要予測の必要がなく一定量の発注で対応できるものだといえます。
7定量発注方式以外の発注方式
定量発注方式以外にも、以下5つの発注方式があります。
- 定期発注方式
- 簡易発注方式
- 不定量不定期発生方式
- 同期化発注方式
- 分納発注方式
定期発注方式
定期発注方式は、「毎月〇日」のように発注するタイミングが固定で決まっており、発注の度に発注量を計算する方法です。その分手間はかかりますが、需要の増減に対応しやすいメリットがあります。
簡易発注方式
商品価格が安価で発注の手間を削減したい商品に適しています。分かりやすい発注点で需要予測を必要としない点が特徴です。古くから製造業で使われている発注法「ダブルビン方式(2ビン法)」や「ミニ・マックス法」は簡易発注方式に含まれます。
不定量不定期発生方式
不定量不定期発注方式では、発注点を下回った際に発注する点が定量発注方式と共通します。ただし、発注ごとの需要にあわせて都度計算して発注量を決めるため、場当たり発注とも呼ばれています。
「必要な商品を必要な時に必要な分だけ」柔軟に発注量を決められるため、高額商品や季節商品のように需要変動のある商品に適しているものの、手間がかかります。
同期化発注方式
同期化発注方式は、毎日あるいは毎週と固定されたサイクルで発注する方法です。
一般的に発注業者と契約を結んで実施するため、発注作業の手間を大幅に削減できます。こまめな管理を必要としない重要度の低い商品に最適です。
ただし、在庫数にかかわらず同じペースで同じ数が届くため、品切れや余剰在庫を引き起こしやすくなります。
分納発注方式
分納発注方式では、あらかじめ立てた計画をもとに在庫数をチェックし、タイミングを見極めながら発注をかけます。そのため在庫や売上の変動にも柔軟な対応ができます。
発注作業の手間はかかりますが、余剰在庫を防ぐことが可能です。
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8発注業務の負担を軽減する方法
発注方式の変更以外にも、以下のように発注業務の負担を軽減する方法はあります。
- 受発注システムの導入
- アウトソーシングの活用
受発注システムの導入
受発注システムの導入によって複雑な発注作業を自動化できるため、負担を軽減できます。システム化によって手作業も削減される分、ヒューマンエラー発生の抑制にも繋がります。
さらに在庫管理を自動化し、受発注システムと連動できれば、より効率化が可能です。リアルタイムで在庫や受発注状況が確認できる点も、大きなメリットといえます。
アウトソーシングの活用
在庫管理と発注業務を外注できると、空いたリソースをコア業務に割くことができ、会社全体の底上げに繋がる可能性があります。
委託先によっては在庫管理や発注業務だけでなく、その他の業務も含めた改善提案やサポートを受けられるため、人手不足の解決だけでなく業務改善も期待できます。
9まとめ:定量発注方式を正しく活用しよう
定量発注方式とは、「この値を下回ったら発注する」と設定した在庫数(発注点)を下回った際に、事前に決めておいた一定量を発注する方法で、発注業務の負担や工数を軽減できるメリットがあります。
ただし、商品の特徴(単価や需要変動など)により適した発注方式が異なるため、定量発注方式が自社商品に適しているかを判断し、正しく活用しましょう。
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